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我が家の四猫物語(7)

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我が家の四猫物語(7)


 蕨が稲見さん(母)に連れられてやってきた日、アーペッペンとYvesは遠巻きにしてあまり近づかなかった。しかし稲見さんは犬や猫の保護のプロでアーペッペンやYvesも対してもあつかいが上手く、しまいにはそばまで寄ってくるようになった。アーペッペンやYvesが他人のそばまで来るというのは稀有なことだ。

 トライアル期間の一週間も過ぎ、正式に譲渡ということになって、蕨は正式に我が家の子になった。

 ケージ飼いには懲りているので、基本的に妻の寝室が主な居場所と決めた。しかし、妻も抱いてあやしたりするのだが、じっと膝の上に居させてあげるというようなことはしない。可愛がるけれど、自分が犠牲精神をはらって人間椅子になってあげるようなことはしないのだ。妻は子供のように、猫と一緒に遊ぶというお友だちスタンスで、猫にスカーフを巻いたり、着せ替えをしたりして遊んであげるのだが、あまり猫を愛翫するというのか、猫が落ち着いてごろごろするような愛撫のようなことはあまりしないのだった。しかし、妻はすっかりわーちゃん持ちになっていて、何かというとわーちゃんわーちゃんと言うようになった。

 最初の一週間くらい深夜にわーちゃんはわーわー鳴いていた。もちろん稲見さんたちを懐かしんでのことだろうが、また捨てられるのではないかという恐怖もあったのかなと思うと不憫だった。しかし、わーちゃんは人なつっこくもあり、猫なつっこくもあり、とにかく人や猫と一緒にいるのが大好きで、にゃーと呼びかけると必ずにゃにゃと返事がかえってくる。少しずつ良い感じで我が家にも馴染んでくれた。妻がピアノを弾くとたいていどこからかやってきてピアノの上に飛び乗ってくる。私がチェロの練習をしているときなども、始めるとアーペッペンもYvesもすーっと去って行くのに(失礼な!)わーちゃんはずっとそばのソファの上にいてつきあってくれるのだった。

 蕨の耳の去勢マークはひどく大きく、一部ちぎれそうになっているが、これは千葉の獣医さんがやった手術で、手技が上手くなかったのか膿んでしまい、何度もやり直した痕らしい。

 そういえば、アーペッペンもYvesも耳の去勢マークはない。もちろん去勢してあるのだが、ミグノンはいろいろなデータをチップに入れて皮膚に埋め込むようにしているからなのだ。どうやったらそのデータを読むことができるのかは、説明は受けたような気もするものの、不明であるのだが……。

 妻は蕨にいろいろと首輪をつけたりスカーフを巻いて遊んであげているが、アーペッペンもYvesも昔は首輪をつけさせようとしたことがある。お揃いの蝶ネクタイで、それぞれ瞳の色に合わせて、アーペッペンはオリーブの、Yvesは水色のを着けてあげたのだが、すぐにはずしてしまい、ふたりとも金輪際首輪はしなくなってしまった。

 蕨少年は我が家に来たときにはまだほんの子供で、とにかくアーペッペンやYvesの後を追いかけてばかりいた。とりわけやはりアーペッペンお姉様が大好きでしょっちゅうくっつこうとするのだった。しばらくして馴染んでくると三人で昼寝するようになった。アーペッペンとわーちゃん、Yvesとわーちゃん、あるいは三人で。ところがしばらくすると、わーちゃんは歯がちゃんと生える過程なのか、歯が痒いらしくしょっちゅう噛みつこうとするようになったのだ。まだちっちゃい歯で尖っているので、人間でも噛まれるとかなり痛い、刺さりそうになることもある。もちろん甘噛みというやつなのだが、もともとあまり肉体的な接触が好きでないアーペッペンとYvesにとって、抱きつかれて噛まれるのは初体験らしく、アーペッペンは怒ってフーッとするし、Yvesはひいひい鳴いて逃げまどうし、なかなかうまくいかないものである。そもそもは孤独なYvesの遊び友だちをつくってあげるというつもりだったのだが。

 それでも心優しいYvesはわーちゃんを舐めて毛づくろいしてあげるのだ。しかし、わーちゃんはYvesよりもぺっぺんお姉様が大好きで、同じ部屋にいるときには視線は常にアーペッペンの方を向いている。恋する少年の眼差しだ。

 これが悩ましい事態をひきおこすことになるのだ。

(つづく)

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