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我が家の四猫物語(8)

我が家の四猫物語(8)


 わーちゃんが来て、みんなで楽しくじゃれて遊ぶという目論見はちょっと外れだったが、それでも喧嘩するでもなく、どうにかそれぞれ平和に暮らすようになっていた。わーちゃんは妻が遊んであげているし、アーペッペンはあいかわらず夜は私と寝て、Yvesは新しい暮らし方を身につけるようになった。それは見廻りである。

 時折、きいきいと鳴くので、玄関のドアを開けてあげると、ドア前の、マンションの共同スペース部分の廊下に出て、そこで狛犬のように座っているのだ。マンションのお隣のTさんも猫ご一家で、ご主人はトランペッターでもあり、家族ぐるみのお付き合いをさせていただいているが、娘さんのT子ちゃんは小学校に上がる前から、Yvesと遊んでくれるようになった。お母さんが猫好きでやはり二匹飼っているのだが、廊下で会うと二人でYvesを撫でてくれるようになったのだ。Yvesはドアの前で見張っているようでもあり、Tさん母娘に撫でてもらうのを待っているようでもある。部屋の正面にエレベーターがあるので、そこに人が吸いこまれていなくなったり、あるいはそのドアが開いて突然人が現れたりするのが面白いらしい。不用心なのであまり長時間は出さないようにしているし、小さな監視カメラも個別に設置してスマホから見えるようにしてあるのだが、Yvesにとっては外の空間がおもしろいらしく、異常がないか見張りをしたり、Tさん母娘に撫でられたり、一日一回は見廻りに出る習慣がついた。アーペッペンはあまり出たがらないし、わーちゃんはどこへ行ってしまうか不安なので出さないようにしているのだが。

 そんな三猫との生活もリズムができつつあり、安定した日々が過ぎていった。

 ところで、初代あーぺっぺんの時に登場した娘はその後あまりこの文章には登場していないが、現在のアーペッペンとYvesを飼うと決めた時期にはもう猫アレルギーもだいぶ治まっていたが、修士課程を修了し、すでに物を書き始めるようになっていて、私たちのところから離れ、一人暮らしをしていた。

 一人暮らしをするようになって娘は野良猫といろいろと縁を結ぶことになる。最初の野良は、娘が我が家からも比較的近い所に一人で暮らしているときに出会った。その同じマンションに動物を主人公にした小説や童話を書く有名な女性の作家のOさんが住んでいて、その方と知り合うことになるのだが、その方は高齢でもしゃんとしていてしっかりと一人暮らしをされていた。そのマンションはペット厳禁なのだが、その方がマンションの裏口の辺りで世話をしている地域猫と出会ったのだ。かなり大きなはちわれ猫である。名をふくという。夜になるとそのOさんは裏口に来て毎晩ふくのためにご飯とお水をあげているのだ。そこに娘も参加するようになって、Oさんともだが、ふくとも仲良しになったのである。それが数年続いた。近所ということもあって、妻も私も時々ふくを見に行ったりした。貫禄のある賢者のような猫で、鳴き声はまさに玉をころがすような美声だった。その作家のOさんも面白い人で、雀を見ると、まあおいしそうなどと真顔で言うような人だった。猫目線なのである。

 しかし、その後、娘は結婚し、別の新居に引っ越して借りぐらしを始めるのだが、その近所でまた一匹の野良猫と遭遇する。名を忠信という。尾はふくらみ猫というよりはキツネのような姿で、娘は思わず歌舞伎の狐忠信を思い起こし、そう命名したらしい。

 忠信との出会いを娘は『新潮』などに書いているのでここで繰りかえすことはしないが、事情があって、わーちゃんの里親の稲見さんや稲見さんが仲良くしている保護団体のLOVE&CO.(ラブコ)の代表のIさんに協力してもらって娘が捕獲・保護し、その後LOVE&COでお世話してもらうこととなった。この団体はユニークで、寄付だけではなく、保護猫そのものも稼ぐというポリシーで運営しているのだ。保護猫をキャラクターにして、コーヒーやカレンダーやクッションやTシャツなどを作って販売しているのだ。私も忠信コーヒー、そして忠信Tシャツを何枚か購入した。

 しかし忠信のことは、娘が保護したとはいっても、あくまで他人事の猫だった。ところがひょんなことからその忠信を我が家で預かることになるのだ。

(つづく)


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