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我が家の四猫物語(9)

 我が家の四猫物語(9)


 忠信はLOVE&CO.(ラブコ)ですでに半年くらい生活をはじめていただろうか。LOVE&CO.の猫たちはみなユニークで、古株の勝新、ファンファン(岡田眞澄)といった強力個性のおじさんたちの間に入って、おじさん三人組みとしてLOVE&CO.ファンにもお馴染みになりつつあった。去年の春先、そのLOVE&CO.代表のIさんが用事でフランスに行くことになった。すでにコロナの蔓延が始まっていて、アルバイトさんもなかなか探せないような状況だったので、その間の2週間ほど忠信を一時預かりすることとなった。

 忠信は推定十六才以上、十八才くらいかもしれないと言われていて、腎臓の持病があり、癲癇もあり、猫エイズの陽性でもあった。少なくとも八年以上は野良暮らしですねと診断され、下半身も少し不自由だ。満身創痍のツワモノなのだ。とにかく猫エイズが他の猫たちにうつってはまずいので、かつては娘の個室だったところ、現在は妻の書斎として使われている部屋を忠信専用にして、トイレも食器も一揃いそこに配置し、完全個室とした。

 三匹でもなかなか大変だし、猫エイズでもあることから二週間したら申し訳ないがお返しするつもりでいた。

 ところが、すでにコロナウィルスの猛威は世界中に拡がっていて、特にヨーロッパでの感染拡大は急激なもので新規感染者が日々数万単位、死者が数千単位という猛威となっていた。フランスもその渦に巻き込まれつつあり、Iさんもなかなか帰国できず、帰国してからも自宅待機が続き、忠信のお預かりはどんどん延びていって、すでに一ヶ月を超えていた。

 妻とも話し合って、もともと娘が保護した猫だし、おとなしく、トイレもきれいにし、だいたい静かにしていて、同じ部屋にいるときも他の先住猫たちとは肉体的な接触はないので、我が家で引き取ろうかということになった。

 最初は娘が付けた名前だし、その迫力から面白がって、孤高の老剣士もしくは大大名のイメージで忠信先生とか忠信公とか呼んでいたのだが、なんだが呼びにくいし、妻が子供の頃に飼っていたルミという猫に色合いが似ていると言い出し、さらにはルミの生まれ変わりに違いない(!)とまで言い出し、なんとなく我が家ではルミという呼び名が定着してしまった。

 かかりつけの動物病院で診てもらっているのだが、そこの先生によれば、この子はきっとノルウェイジャン・フォレスト・キャットですねということだった。確かにノルウェイの森が似合いそうな感じもする。私に言わせれば、この子の瞳は私の大好きな女優シャーロット・ランプリングそのものだ。『愛の嵐』のあるいは『スターダスト・メモリー』の瞳なのだ。その睨んでいるような目線は人の心を掻き乱すようなところがある。

 シャーロットことルミこと忠信(ややこしい)に関しては、我が家ではまったく勝手な創作だが、ひとつのストーリーが出来あがっていて、ルミの生まれ変わりで東京に生まれてきたが、ギターの弾き語りをする女性歌手のところで蝶よ花よと育てられていた、ところがある日ふと彼女とはぐれてしまい、以来苦節十何年、お互い探しつづけて来たがすれ違ってばかりいて泣く泣く野良生活を送ってきた、というものだ。波瀾万丈の猫生だ! ギターの弾き語りの歌手、というところは、ルミこと忠信は実際にギターの音色が大好きで、アコースティック・ギターを弾いていると必ずそばに寄ってきて軀を寄せてくるからだった。

 魅惑的でもあり、かわいくもあり、ときには崇高な感じすらするルミ、正式名(?)シャーロットことルミこと忠信もすっかり我が家に馴れ、昼間はソファーの真ん中という特権的な場所に鎮座し、瞑想するようになった。先住猫たち、アーペッペン、Yves、わーちゃんも、最初こそその威容に圧倒されていたが、それぞれあまりルミを気にせず自由に生活するようになっている。Yvesは見廻りを続けているし、わーちゃんはもしゃもしゃ猫草を食べた後は、恋する少年としていつもアーペッペンを見つめている。

 ところが二ヶ月前の忘れもしない6月24日、とんでもない突発事件が起きるのである。

(つづく)


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